古賀良彦の快眠コラム〜眠りのためにできること〜

1. 眠れないのか? 眠りたくないのか?

多くの人は「不眠症」と「不眠」を混同しがちです。不眠症は病気。専門医の治療が必要です。2時間以上寝つけない(入眠障害)、夜中や朝方思ったよりも早く目が覚める(中途覚醒)、しっかり寝た気がしない(熟眠障害)などの症状が週2回以上あり、かつ1カ月以上続いて社会生活に支障が出ている状態です。
一方、不眠はあなたにもきっとある、こんな状態。たとえば、心配ごとを抱えたときや深夜ドラマにはまったとき。旅先でいつもとちがう枕を使うとき。ものすごく忙しくて「寝てなんかいられない!」というとき。あるいは、お酒を飲み過ぎて寝てしまったのに夜中に目が覚めるなんてこともあるでしょう。
眠れないのか? 眠りたくないのか? まあ毎日じゃないから大丈夫、休みの日に寝だめするから平気などと考えてしまう。そんなあなたは「かくれ不眠」かもしれません。

かくれ不眠とは、専門的な治療をする必要はないものの、睡眠に対する悩みや不満があり、日常生活に影響が出ている。そんな状態にも関わらず、睡眠の重要性に対する認識が低い状態を示す言葉として、私たち専門家が提唱した概念です。ちょっとしたきっかけで、誰でも、いつでもなる可能性があり、実際、20〜40代の約8割が該当することがわかっています。

かくれ不眠は5つのタイプに分類できます。最も多いのは「眠りが浅い」タイプです。途中で目が覚めるので朝起きたとき、寝足りない感覚があるのが特徴です。
睡眠不足によって脳が疲れ気味で神経がぴりぴりしている「高ストレス」タイプ、忙し過ぎて生活リズムが乱れた「生活不規則」タイプがそれに続きます。ほかには、日ごろからあまり眠りを大事にしていない「自分は大丈夫」タイプ。これは女性に多い傾向があります。そして、まだそんなに不調感はないけれど、この先、本格的なかくれ不眠に発展するかもしれない「初期かくれ不眠」タイプ。このタイプは男性に多く、全体の約2割を占めています。

2. たかが不眠、されど不眠

睡眠は、食生活の改善や運動習慣と並んで、健康を維持するための大切な要素です。ちょっと考えてみましょう。朝食を抜くと意欲が減退します。偏った食事を続けると体調が崩れます。運動をめったにしない人は、駅の階段ぐらいで息切れします。睡眠だって同じです。睡眠時間が不足したり質が低下したとたんに何らかの影響が出てくるという点は、食事や運動と共通しています。

不眠は知らず知らずのうちに心身に影響を及ぼし、生活の質を低下させます。私たちもよく経験するのが、不眠による集中力や作業効率の低下です。これは、睡眠不足で脳が休息できず、睡眠中に行われるはずの情報の整理がうまくいかなくなるからです。
また、風邪に対する抵抗力が低下する可能性も指摘されています。睡眠の状態と風邪症状の出方を調べた海外の研究では、睡眠時間が7時間未満の人は8時間以上の人に比べて風邪を発症しやすくなったといいます。さらに睡眠の質が悪い人も質が良い人より風邪を引きやすくなったそうです。
最近では睡眠不足が肥満につながる仕組みもわかってきました。これは食欲に関わるホルモンの分泌リズムが乱れるからです。

このように不眠は心や体の機能を乱すストレスになります。そして、そのストレスがさらに不眠を悪化させるという悪循環を生じさせます。これが「不眠の負のループ」です。このループにはまると、不眠とストレスが互いに悪影響を及ぼし合い、はじめは一時的な不眠でもやがて症状が複雑なものになっていきます。そうならないように悪循環を早めに断ち切る。すべてのかくれ不眠の方にとって、これが最も大切なポイントです。

3. 誰もがいますぐできること

よい眠りを手に入れるのは、そんなに難しいことではありません。かくれ不眠は、慢性的な不眠症と違い、専門的な治療を必要としない状態ですから、基本的に自分で対処できます。まず押さえておきたいのは、自分に対して厳しくしすぎないことです。誰しもそれなりの理由があって、眠れなくなったり、眠らなかったりしているのですから、「あれをしてはだめ」とか「こうしなくてはいけない」などと禁止や規則で自分を縛っては、かえって心身が緊張してしまいます。眠りは心と体が緩むことでもたらされます。「私はこうすると気持ちがいい」という感覚を大切にして、自分なりのリラックス法を見つけましょう。

たとえばデスクワークばかりでちょっと運動不足という方には、夕方ウオーキングなどの軽い有酸素運動をしてみることをおすすめします。ストレス発散になるだけでなく、夜間の深部体温の低下が促され入眠しやすくなります。体は疲れているのに心がほぐれず眠れないという方は、夕食後、40℃前後のぬるめのお湯に少しのんびりつかったり、気分を落ち着かせるアロマエッセンスなどでリラックスするのも良いでしょう。

もう一歩、積極的に対処する方法としてセルフメディケーションも重要です。セルフメディケーションとは、薬局やドラッグストアなどで購入できるOTC医薬品の睡眠改善薬を必要に応じて活用することです。睡眠改善薬は、かくれ不眠がストレスを増やし、そのストレスがさらなる不眠を招くという「不眠の負のループ」を断ち切るうえで重要な役割を果たすと考えられるからです。

かくれ不眠チェックシート」を活用した対処も可能です。
チェックした項目が3個未満の方は、不眠による影響がまだ少ないので、生活上のちょっとした工夫が大変効果を発揮します。できそうなことからトライしてみてください。
ただし、チェック数が10個以上の方はやや深刻です。不眠症の疑いがありますので、医療機関の受診を検討してください。
チェック数4〜9個のいわば中間地帯に位置する方は、対処のなかにセルフメディケーションを取り入れることもひとつの選択肢になります。

4. 「睡眠改善薬」はあなたが知ってる、あの成分

睡眠改善薬は、寝つきが悪い、眠りが浅いなどの一時的な不眠症状を緩和させるもので、ずっと飲み続けるものではありません。医療機関で用いられる睡眠薬(睡眠導入剤)とは異なる、「抗ヒスタミン薬」を有効成分とする薬です。抗ヒスタミン薬といっても、ぴんとこないかもしれませんが、その名の通り「ヒスタミン」という物質の作用をブロックする働きをもつ成分です。

ヒスタミンは体内のさまざまな組織でH1受容体に結合して、多種多様な反応を引き起こします。H1受容体は反応を引き起こす「スイッチ」で、そのスイッチを押すのがヒスタミンです。抗ヒスタミン薬はH1受容体にフタをし、ヒスタミンがスイッチを押せないようにするのがもともとの働きです。風邪を引くと鼻粘膜でヒスタミンが大量に放出され、毛細血管や知覚神経に作用するので、くしゃみや鼻水が出てきます。そのため、抗ヒスタミン薬は、あなたもよく知っている風邪薬や鼻炎薬などにも配合されています。
また、これらの薬を飲むと眠くなることがありますが、ヒスタミンは脳では覚醒状態(目の覚めた状態)を維持する働きを持っています。つまり、抗ヒスタミン薬により脳内でヒスタミンがスイッチを押せなくなるため、覚醒状態が保たれなくなり、眠くなるのです。この作用をうまく応用して開発されたのが睡眠改善薬であり、脳の過剰な興奮を抑え、結果として自然に近い眠りに導きます。

抗ヒスタミン薬は海外でもOTC医薬品の睡眠改善薬として用いられており、用法・用量を守って使えば、習慣性や依存性は生じないこともわかっています。

5. ちゃんと眠れば、いろんなことがうまくいく

よい眠り(Good Sleep)はよい明日(Good Life)につながる--。そんな研究レポートが近年、いくつか出始めています。1800人余りの成人を対象に米国で行われた調査では、よい睡眠がとれていることとポジティブな性格傾向が相関することがわかってきました。日ごろから量・質ともによい睡眠がとれている人は、年をとっても心身ともに健康度が高く、よく眠れない人よりも生活の質が高いことを示すレポートも登場しています。これは若い世代も同じで、よく眠れている若者はやはり健康関連の生活の質が高いといいます。

「ああ、よく眠れた!」という日は確かにとても気分がいいですね。心身ともに充分な休息がとれると、ストレスに耐える力も上がります。それまでくよくよ悩んでいたことがあっても、たいしたことではないと思えるようになったり、解決に向けた妙案がパッとひらめいたり。体のほうも前の日の疲れがとれて、気力が充実していますから、あなたが本来持っている力を充分に発揮できる状態になっているはずです。

これらのメリットは、日ごろからよい睡眠がとれている人にとってはごく当たり前のものです。でも、睡眠リズムが乱れた人にとってはまさに値千金です。眠りがおろそかになったときこそ、眠りの重要性に意識を向けてみることが大切なのです。

私たちの睡眠リズムはいとも簡単に乱れます。でも、それをただすための方法はいくつもあります。これを活用しない手はありません。あなたの日中の活動をより充実したものにするために、そして、人生を楽しくいきいきとしたものにするために、食事や運動とともに睡眠にも関心をもち、積極的にマネジメントしていきましょう。


参考文献:Sheldon C. et al:Arch Intern Med169(1):62-67,2009,Lemola S. et al:Int J Behav Med2012 Oct4,[Epub ahead of print],Catherine Lo. et al:Health Qual Life Out10,72:1-7,2012,Karolin R. et al:front Psychiatry3,76:1-6,2012

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